大学生アーティストから、ナイキやグーグルのデジタルクリエイターへ
サレス氏がデジタルアートの世界で頭角を現したのは、意外なタイミングだった。メキシコシティのメキシコ国立自治大学(略称UNAM)に在学中の2009年、新型インフルエンザの流行により、メキシコ全土の学校が一時休校となったのだ。授業がなくなり、思いがけず自由に使える時間を得たサレス氏は、創作に打ち込み、作品をオンラインで発表するようになった。
「仕事につなげようと思っていたわけではないんです」とサレス氏は話す。「最初は趣味のようなもので、とにかくインターネットに作品を上げ始めました。イラストレーターとしては、作品を世に出して、誰かがそれに触れ、できれば楽しんでくれる。そう想像するだけで楽しかったんです」
オンラインで発表した作品が、メキシコの大手広告代理店のクリエイティブディレクターに見いだされた。自らもクリエイティブディレクターとして働き始めたサレス氏は、ほどなくナイキ、キットカット、グーグルといった多国籍ブランドのデジタル広告キャンペーンを手がけるようになった。「ちょうどメディアと広告の転換期だったのは幸運でした」と振り返る。「従来型の企業は、ソーシャルメディアがもたらした変化にどう対応すべきかを模索していて、こうした新しい領域に積極的に挑むアーティストやクリエイターを探していたんです」
サレス氏はデジタル広告の仕事で高い評価を得て、広告業界の賞もいくつか受賞した。広告の仕事がこれほど創造性に富んでいることに驚く一方、サレス氏はやがて、オンラインで発信するシンプルなビジュアルコンテンツが秘めた、より大きな可能性を思い描くようになる。「広告の仕事を通して、適切な画像は、見る人との間に瞬時に感情的なつながりを生み出せることがわかりました」と話す。「同時に、同じ手法を使えば、もっと多くのことを成し遂げられるのではないかと考えるようになったんです。それがピクトラインの発想の原点です」
どの画像にも扉を開く力がある
2015年、サレス氏はグスタボ・グスマン氏とともにピクトラインを設立した。スマートフォンに押し寄せる膨大なコンテンツを、人々が整理し、理解できるよう手助けすることが新会社の狙いだった。野心的な目標だったが、情報をもっと凝縮した形で受け取りたいという確かなニーズがあると2人は感じていたと、サレス氏は話す。
当初からサレス氏は、クリック数稼ぎのコンテンツに走る誘惑を警戒していた。「これだけ情報があふれている中で、ただ雑音を増やすようなことはしたくありません。数字上の成果が目的ではありません。クリック数や『いいね』の数などを追い求めることではないんです。どの画像も、画面の向こう側にいる人のことを理解したうえで作るべきです。私たちが目指すのは、人を引きつけ、楽しませ、新たな発見をもたらし、周りの世界の見方を本当に変えるようなビジュアルストーリーです。どの画像にも、扉を開く力があるんです」……
