誰もが何者でもない自分でいられる場所
関根氏は上海で生まれ、3歳の時に日本に移住した。幼い頃の東京の記憶に、清掃員として働いていた父と通った銭湯の思い出がある。父は朝3時から4時に家を出て、仕事を終える昼すぎに近所の銭湯が開く。一緒に銭湯に通うことが日課だった。
中国人と日本人の両親のもとで育った関根氏は、自分と同級生たちの家庭に違いがあると気づいていた。学校で正月文化など季節の風習が話題に上ると、自分の知識が人と同じとは限らず、不安になることがあった。その隔たりを埋めてくれるのが銭湯だった。銭湯は、日本の暮らしに関わる季節湯などの伝統を体験できる身近な場所だったからだ。「自分の生活には『普通の日本人が経験している何か』が欠けているような気がしていましたが、銭湯に行くとその不安が満たされました」と関根氏は言う。「私にとって銭湯は、いつも特別な場所でした」……
写真/井上勝也
翻訳/伊豆原弓
