【多摩動物公園】モルモットの不正咬合
みなさんは「不正咬合」(ふせいこうごう)という言葉に聞きなじみはありますか? 不正咬合とは、歯並びや噛み合わせが悪い状態のことをいいます。
じつは、モルモットの三大疾患のひとつが不正咬合といわれています。モルモットの歯は上下合わせて20本あります。前歯(切歯)が4本、奥歯(臼歯)が16本あります。切歯も臼歯も一生伸び続けます。
また、モルモットの歯に非常に特徴的なものが、臼歯の角度です。臼歯はまっすぐ上と下に向かって伸びているのではなく、上の臼歯は外側に向かって斜めに、下の臼歯は内側に向かって斜めに生えています。

この不正咬合ですが、おもな原因は食べているえさにあるとされています。やわらかいえさばかりを食べていると、この一生伸び続ける歯をえさで削ることができません。その結果、歯が異常に伸びたり、変形したりしてしまうことがあります。症状としては、食欲不振、よだれが多いなどが多く見られます。
伸びてしまった臼歯は削って短くすればいいだけなのですが、モルモットたちがおとなしく削らせてくれるわけではないので、麻酔が必須となります。
そのため、不正咬合にならないように予防することがもっとも大切です。多摩動物公園では、咀嚼により歯が自然に摩耗するように固い乾草をメインとして与えていますが、それでも歯のトラブルに直面することがあります。
ある日、モルモットの食欲がなく、元気も少しないということで検査をおこないました。モルモットの食欲不振の原因として、歯の疾患は見逃すことができないため、麻酔をかけてしっかりと口の中を検査しました。

すると、右側の臼歯(緑色マーカー部分)が舌の上に少し覆いかぶさっているのが確認できます。
私たち人間で考えると、歯が少し舌に覆いかぶさっていても食べることはできますが、モルモットの舌は奥から2/3が固定されていて動かせるのは先端だけです。このような特徴的な構造をもつため、上の写真のように歯が伸びてしまうと舌の左右上下方向の動きが阻害され、食べものを喉の奥に送ることができません。
今回は、伸びてしまった臼歯を削り、さらに、角度も少し調節しました。

少し見にくいですが、舌を覆っていた部分が短くなっているのが確認できるでしょうか。さらに、平坦だった歯の角度も少し角度がついています。麻酔から覚めたあと、問題なく乾草を食べてくれてほっと一安心です。
一度なってしまうと生涯付き合っていかなければならない不正咬合ですが、飼育担当者と相談して給餌内容の改善による発生の予防やよりよい治療方法の模索、麻酔時間の短縮など、日々改良を重ねていきます。
〔多摩動物公園飼育展示課動物病院係 鎌倉〕
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