【多摩動物公園】アジアゾウの「アヌーラ」と「ヴィドゥラ」の獣舎を交換しました

東京ズーネット

 多摩動物公園のアジアゾウ舎では、2024年12月25日にアジアゾウ「アヌーラ」(オス、推定71歳 ※移動日時点)を今まで「ヴィドゥラ」(オス、17歳)がいたオス舎に移動しました。これにより、ヴィドゥラはメス舎で「アマラ」(メス、20歳)と終日すごすことになりました。

 今回はこの2頭の収容場所を交換した経緯を説明します。
 


手前:ヴィドゥラ(オス)、奥:アマラ(メス)

 当園では、2024年4月より春から秋の終日と冬季の日中にヴィドゥラとアマラの2頭をオス舎の全エリアとメス舎の屋外放飼場で同居していました(各々のトレーニング時間を除く)が、いまだ繁殖にはいたっていません。ヴィドゥラからアマラにマウント(オスがメスに交尾するために、メスの背中の上に両前肢を乗せる行動)しようとしても、アマラは発情中にも関わらず、ヴィドゥラを受け入れることなく逃げてしまいます。

 私たちは改善策を検討するなかで、アマラの精神面もケアする必要があるかもしれないと考えました。ゾウは野生では「母系集団」という同じ家系のメスだけの群れを作ります。その群れのなかで、互いに助け合い、リーダー役のメスが精神的に不安定になったメスを落ち着かせます。

 アマラの場合は、これまでメス1頭のみでくらしており、拠り所となるゾウがいない状態でした。リーダー役のメスがいないまでも、アマラにとってはヴィドゥラが精神的な支えになっているようです。その証拠にアマラはヴィドゥラと同居するようになってからは、以前に見られていたトレーニング中に興奮するなどの精神的に不安定な状態にもとづくと思われる行動がほとんど見られなくなりました。

 一方で、ヴィドゥラはこれまで交尾の経験がないため、アマラとすごす時間がより長くなれば、交尾に挑戦する機会を増やすことにもつながります。

 そこで、私たちはヴィドゥラとアマラを昼夜問わずいっしょにすごせるように、メス舎を使って飼育管理することにしました。今回の移動により、冬季の夜間も含めた周年、2頭を同居することができるようになりました。

 冬季の2頭の同居時間が約2時間から24時間(各々のトレーニングの時間を除く)になり、ヴィドゥラの交尾への挑戦機会の増加とアマラの精神的に安定した時間の延長につながります。私たちはアマラの良好な精神状態が続いていくことで、アマラがヴィドゥラとの交尾を受け入れるようになることを期待しています。

 メリットはヴィドゥラとアマラだけではありません。アヌーラがメス舎で飼育されていた際は、展示時間内にメス放飼場に放飼されている以外は掃除やアマラと分けるために、メス舎のトレーニングエリアという限られた範囲にいてもらっていました。アヌーラをオス舎で管理することで、アヌーラは2頭の同居のタイミングに関係なく、屋外放飼場に出ることができます。

 これにより、トレーニングエリアのみと比べて、約4倍の広さを利用できるようになります。メス放飼場は利用できなくなりますが、今後気温が上がり、屋内と半屋内エリアを用いた夜間放飼ができることを考えると、トータルの利用スペースは増えることになります。
 

アヌーラ(オス)

 私たちはさらにアヌーラの行動バリエーションを出すため、オス舎のいたるところにえさを置くなど目のほとんど見えていないアヌーラに活発に動いてもらうくふうをしています。

 私たちはこれからもゾウによりよい飼育環境を提供できるよう飼育管理に努めていきます。

〔多摩動物公園南園飼育展示第1係 田口〕

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