【葛西臨海水族園】シモフリタナバタウオの行動を変えたもの

東京ズーネット

 葛西臨海水族園の「世界の海」エリアの「紅海」水槽には、シモフリタナバタウオという魚がいます。白い斑点が散りばめられた大きなひれを広げた姿はとても美しく、この模様でハナビラウツボに擬態し、身を守っていると言われています。また、岩の陰や天井に産卵し、卵が孵化するまで親が守る生態をもっていることが知られています。
 


全身に白い斑点が散りばめられたシモフリタナバタウオ

 特徴的な見た目のシモフリタナバタウオですが、「紅海」水槽で見つけられない方も多いのではないでしょうか。これまで展示数が1個体だったことに加え、警戒心が非常に強く、また、タナバタウオ科の多くは夜行性で、ふだんは岩の裏にじっと隠れていることが多いので、無理もありません。この魚の魅力をもっと伝えたい私は、いつももどかしい思いをしていました。

 あるとき、少しでも見られる確率を増やそうと、バックヤードで飼育していた別の個体を水槽に追加しました。その後のようすを注意して見守っていたある日、正面から見える岩陰にシモフリタナバタウオの姿を発見したのです。「これでやっと見てもらえる!」と喜んだのもつかの間、ひとつの違和感に気づきました。その個体は、ずっと岩の裏に隠れて出てこなかった、前からいる個体だったのです。
 

シモフリタナバタウオが頻繁に見られるようになった岩のくぼみ


 ずっと岩の裏に隠れていたのに、なぜ前に出てきたのでしょうか。2つの理由を推測してみました。

 ①自身のなわばりを主張するため
 ②岩陰に産卵床を作り、繁殖するため


 互いを追い回したり、攻撃したりするような行動は見られていないため、①のなわばりの主張が理由というわけではなさそうです。

 では、②はどうでしょうか。その岩のくぼみは半アーチ状になっており、産卵場所の特徴に適しているようにも見えます。また、周辺にはときどき砂の山ができていたので、砂を掘って産卵床の準備をしているのではないか、と私は考えました。しかし、まだ実際に産卵を確認したわけではないため、断言はできません。

 ぜひ、2個体のシモフリタナバタウオのようすを観察しに来てください。みなさんは、何をしているように見えますか。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 吉武将希〕

(2025年04月11日)

関連ワード
カテゴリ
タグ