【上野動物園】アジアゾウの爪を健康に保つための管理について
先月、こちらの記事で、アジアゾウの「ウタイ」(メス)の爪の状態についてお知らせしました。
この記事を読んでゾウの爪について興味をもった方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、上野動物園でおこなっているゾウの爪の管理方法と、関連するトレーニングについてQ&A方式で紹介します。
Q:ゾウの爪切りをおこなう頻度は? なぜその頻度でおこなうの?
A:爪を切ったり削ったりする処置のことを、「削蹄」(さくてい)といいます。削蹄は、ゾウたちの爪や足の状態を見ながら、ほぼ毎日おこなっています。どの足も問題がなければ、おこなわない日もあります。飼育下のゾウは爪や足裏に不調が起きやすいので、毎日チェックして、悪化する前に対処することが必要だからです。
Q:ゾウに爪切りが必要な理由は?
A:人間と同じように、ゾウの爪も日々伸びていきます。野生のゾウは長い距離を移動して生活しているため足の爪も適度に削れていきますが、飼育下のゾウは野生に比べて歩く距離が少ないので、爪が伸びすぎてしまいます。さらにコンクリートなどの硬い床面は、伸びた爪に負荷をかけてしまいます。放置すると、伸びた爪が割れてきたり、そこに雑菌が入って化膿したりすることがあるのです。
Q:新人の飼育担当者がゾウの爪切りをできるようになるのにどれくらい時間がかかる? 特別な資格は必要?
A:特別な資格は必要ありません。飼育係は、まずゾウの足の構造について文献や資料で学ぶところから始めます。飼育作業にどれだけ習熟しているかや、その飼育係に対するゾウの反応や認識のされ方などを総合的に考慮して、最初は削蹄作業ではなくトレーニングに携わります。その後、先輩の飼育係に横についてもらい、削蹄について教わりながら少しずつ経験を積んでいきます。飼育担当になってからここまででだいたい1年くらいです。
Q:トレーニングとは?
A:当園では、ゾウの健康管理をスムーズにおこなうことができるよう、必要な動きをゾウに自発的にしてもらうためのトレーニングを毎日おこなっています。例えば、削蹄など足の管理のために柵から足を出すトレーニング、採血のために耳を柵から出すトレーニングなどがあります。
耳を出すトレーニング。誘導したり体にふれたりするときには、声をかけながらおこないます
Q:ゾウが爪切りに協力してくれるようになるまでには、どのくらいの期間のトレーニングが必要?
A:環境によっても異なりますし、個体差もあります。当園で現在飼育している「スーリヤ」(メス)とウタイの場合は、以前、人がゾウと直接接しながら世話や健康管理をしていたころから削蹄をおこなっており、トレーニングの下地はできている状態でした。柵などで人の安全を確保しながら世話や健康管理をおこなう飼育方式に切り変えたあと、柵越しのトレーニングを開始してからは、約半年で削蹄できるようになりました。
Q:ゾウ自身は爪を切られることをわかって足を出しているの?
A:毎日おこなっていることなので、削蹄をされること自体は理解していると思われますが、爪を切ってほしくて足を出すわけではありません。日々の足を出すトレーニングの成果です。
Q:爪を切るときにゾウがストレスを感じないように特に気をつけていることは?
A:刃物を使うので、必要のないところを切らないこと、急な動きでゾウを驚かさないこと、ゾウが嫌がるときには無理をしないで、触られることに慣らすことからおこなうなどです。
Q:爪切り専用の道具を使うの?
A:よく使うのは、通常の工具であるヤスリ、動物の削蹄専用の道具である「蹄刀」(ていとう)と鎌型蹄刀、という道具です。ヤスリはおもに爪を削るのに使います。蹄刀は、爪や、足の裏の削る部位によって使い分けをします。
ゾウの削蹄に使う道具
ケアをする部位によって道具を使い分けます
Q:爪切り以外におこなっているゾウの足のケアは?
A:ときどき関節を痛めることがあるので、歩き方も毎日チェックしています。
ゾウにとって足は、大きな体を支えるための命綱です。そしてトレーニングは、ゾウの体の手入れだけでなく、飼育係との信頼関係を築くためにも大切な作業です。ゾウと飼育係が協力し合うことで、小さな変化も素早く発見することができ、それが適切な処置をおこなうことにつながり、ゾウの健康を守ることができるのです。
(2024年11月17日)
この記事を読んでゾウの爪について興味をもった方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、上野動物園でおこなっているゾウの爪の管理方法と、関連するトレーニングについてQ&A方式で紹介します。
Q:ゾウの爪切りをおこなう頻度は? なぜその頻度でおこなうの?
A:爪を切ったり削ったりする処置のことを、「削蹄」(さくてい)といいます。削蹄は、ゾウたちの爪や足の状態を見ながら、ほぼ毎日おこなっています。どの足も問題がなければ、おこなわない日もあります。飼育下のゾウは爪や足裏に不調が起きやすいので、毎日チェックして、悪化する前に対処することが必要だからです。
Q:ゾウに爪切りが必要な理由は?
A:人間と同じように、ゾウの爪も日々伸びていきます。野生のゾウは長い距離を移動して生活しているため足の爪も適度に削れていきますが、飼育下のゾウは野生に比べて歩く距離が少ないので、爪が伸びすぎてしまいます。さらにコンクリートなどの硬い床面は、伸びた爪に負荷をかけてしまいます。放置すると、伸びた爪が割れてきたり、そこに雑菌が入って化膿したりすることがあるのです。
Q:新人の飼育担当者がゾウの爪切りをできるようになるのにどれくらい時間がかかる? 特別な資格は必要?
A:特別な資格は必要ありません。飼育係は、まずゾウの足の構造について文献や資料で学ぶところから始めます。飼育作業にどれだけ習熟しているかや、その飼育係に対するゾウの反応や認識のされ方などを総合的に考慮して、最初は削蹄作業ではなくトレーニングに携わります。その後、先輩の飼育係に横についてもらい、削蹄について教わりながら少しずつ経験を積んでいきます。飼育担当になってからここまででだいたい1年くらいです。
Q:トレーニングとは?
A:当園では、ゾウの健康管理をスムーズにおこなうことができるよう、必要な動きをゾウに自発的にしてもらうためのトレーニングを毎日おこなっています。例えば、削蹄など足の管理のために柵から足を出すトレーニング、採血のために耳を柵から出すトレーニングなどがあります。
耳を出すトレーニング。誘導したり体にふれたりするときには、声をかけながらおこないます
Q:ゾウが爪切りに協力してくれるようになるまでには、どのくらいの期間のトレーニングが必要?
A:環境によっても異なりますし、個体差もあります。当園で現在飼育している「スーリヤ」(メス)とウタイの場合は、以前、人がゾウと直接接しながら世話や健康管理をしていたころから削蹄をおこなっており、トレーニングの下地はできている状態でした。柵などで人の安全を確保しながら世話や健康管理をおこなう飼育方式に切り変えたあと、柵越しのトレーニングを開始してからは、約半年で削蹄できるようになりました。
Q:ゾウ自身は爪を切られることをわかって足を出しているの?
A:毎日おこなっていることなので、削蹄をされること自体は理解していると思われますが、爪を切ってほしくて足を出すわけではありません。日々の足を出すトレーニングの成果です。
Q:爪を切るときにゾウがストレスを感じないように特に気をつけていることは?
A:刃物を使うので、必要のないところを切らないこと、急な動きでゾウを驚かさないこと、ゾウが嫌がるときには無理をしないで、触られることに慣らすことからおこなうなどです。
Q:爪切り専用の道具を使うの?
A:よく使うのは、通常の工具であるヤスリ、動物の削蹄専用の道具である「蹄刀」(ていとう)と鎌型蹄刀、という道具です。ヤスリはおもに爪を削るのに使います。蹄刀は、爪や、足の裏の削る部位によって使い分けをします。
ゾウの削蹄に使う道具
ケアをする部位によって道具を使い分けます
Q:爪切り以外におこなっているゾウの足のケアは?
A:ときどき関節を痛めることがあるので、歩き方も毎日チェックしています。
ゾウにとって足は、大きな体を支えるための命綱です。そしてトレーニングは、ゾウの体の手入れだけでなく、飼育係との信頼関係を築くためにも大切な作業です。ゾウと飼育係が協力し合うことで、小さな変化も素早く発見することができ、それが適切な処置をおこなうことにつながり、ゾウの健康を守ることができるのです。
(2024年11月17日)