脱炭素提案で工場のカーボンニュートラルを推進(濱坂電機株式会社)

東京サステナブルNAVI
濱坂電機株式会社 取締役社長 門下 和夫 様

 

業績低迷がきっかけで「永続的な発展」を基本姿勢に

濱坂電機株式会社(以下、濱坂電機)は、日野市に本社を構える創業70年の企業です。お客様に安心して電気を使っていただけるように「電気の安心」を企業理念に掲げ、工場の電気設備の設計・施工管理、生産設備の制御、電設資材の販売を手がけています。

同社はSDGsの概念が誕生する前から「環境経営」を掲げ、環境問題への取り組みを企業活動の中心に据えていました。環境経営に舵を切った経緯を、門下社長は次のように振り返ります。

「弊社は1990年初頭まで業績が絶好調だったのですが、バブル経済の崩壊を受けて業績が悪化し、赤字に陥っていた時期があります。リストラや経費削減、資産の処分で何とか乗り切り、借入金も徐々に返済していきました。そんな経験から短絡的な発展ではなく『永続的な発展』を意識するようになったのです」。

 

2000年代初頭頃に取引先からISO14001(環境ISO)の取得を求められ、同社の環境経営がさらに加速しました。ISO取得のための部署の設置からはじまり、環境配慮商品の販売や紙ごみの削減、電気使用量の削減、廃棄物の適正管理などに取り組み、無事にISO14001を取得。社内で環境経営に取り組もうとする姿勢が根付いていきました。さらに、同時期に会社のロゴを「自然環境との共生」を象徴する若葉のモチーフに変更。企業として新陳代謝をしながら永続的な発展に取り組んでいくという意思を表しています。

SDGsが世間で浸透し始めた後、同社でそれまで取り組んできた環境経営や人材開発がSDGsと親和性があったことから、環境ISOの環境目標に「SDGsへの取組みと脱炭素社会への活動」を追加して社内に徹底しました。さらに25年前の経営危機後の社内の沈滞ムードに終止符を打つべく、「濱坂リボーンプロジェクト」を開始。ジェンダー平等や人材開発、見える化による生産性向上など、SDGsの理念に合致する多くの目標を掲げています。

 

「脱炭素提案」で工場のカーボンニュートラルを導く

同社では近年「脱炭素提案」にも力を入れ、電気設備工事や電気制御工事での設備を最適化し、製造ラインなどの効率化、脱炭素に関連する補助金や助成金を提案し、CO2排出の抑制につなげています。

約1年前からは、脱炭素に関する情報をまとめた冊子『ハマNavi通信』を毎月発行。セミナーも定期的に開催し、冊子からセミナーへの集客を図り、顧客との接点作りに活用しています。創刊当初、『ハマNavi通信』を近隣の約500社に配布したところ、好評だったことから継続しています。

「日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする『カーボンニュートラル』を目指しているため、多くの工場で『カーボンニュートラル』に取り組んでいます。しかし、やれることはすでに取り組んでしまって、次にすべきことがわからないという企業も多い。そういった工場に『ハマNavi通信』を配布すると、熱心に読んでくださいます」と門下社長。

 

企業内大学「Hama College」と「4つのキャリアパス」で人材育成

同社は人的資本経営にも力を入れ、2025年から過去に行っていた研修や教育を包括した「Hama College」と呼ばれる企業内大学がスタートしました。一般課程と専門課程の2段階に分かれ、一般課程ではファシリテーションやコーチング、ロジカルシンキングといった一般教養の研修を実施。不定期でユニークな研修も行われ、2025年はコント作家の方をお招きして『ユーモア研修』を実施しました。「コミュニケーションの基本はユーモアです。『ユーモア研修』は好評でしたよ」と門下社長は目を細めます。

専門課程では、若手の技術職社員を3年で一人前に育成することを目標としています。以前まで新人を一人前に育てるのに、育成者により3〜10年とばらつきがあったのが課題でした。そこで専門課程のカリキュラムを作成し、教育の標準化を図りました。講師は一線級の技術者です。さらに門下社長は「これからは女性の技術職を増やしていこうと考えています。元々当社は男女で勤務体系や給与体系が同じで女性が活躍する土壌がある上で、技術職は設計と施工管理なので体力仕事はほとんどないので女性が活躍するポテンシャルが十分にあります」と意気込みます。

「Hama College」に加えて、同社の人的資本経営を支えるのが「4つのキャリアパス」です。会社人生における4つの働き方を用意し、自分の価値観にあった働き方を選択できるようになっています。

  • マネジャーコース(管理職を目指すコース)
  • エキスパートコース(専門に特化したエキスパートを目指すコース)
  • 次世代経営者コース(役員や経営者を目指すコース)
  • ワークライフバランスコース(就業の傍ら育児や介護、通学、起業、趣味などができるように配慮されたコース)

上記の4つのコースに付随して、「イノベータープラス」と呼ばれるイノベーションを起こす人材のために就業環境を整備したコースも選択でき、3年ごとのキャリアプラン更新時にコースの変更も可能です。「4つのキャリアパス」を設けた経緯について「仕事が命の次に大事な人もいれば、とにかく生活をまかなえればいいという人もいます。さまざまな価値観を実現できるように『4つのキャリアパス』を設けました」と門下社長は語ります。

現在、次世代経営者コースを選択する社員全員が、「社長になりたい」と志願しているのだとか。門下社長は「私としては、上からの辞令だけで昇格するのではなく、自らの志のある社員に社長や役員になってもらいたいです」と次世代経営者コースの社員に期待をかけています。

 

一人あたり年収1,000万円を目指して「見える化」を推進

人的資本経営の一環で、「見える化」にも精力的に取り組んでいます。同社ではDX推進とAI推進を「見える化」と捉え、専門部署の「システム企画部」を創設しました。業務改善のフレームワーク「ECRS(イクルス)」を基本の考え方としています。

  • Eliminate…排除
  • Combine…結合
  • Rearrange…交換
  • Simplify…簡素化

同社の「見える化」は、「仕事の見える化」「状態の見える化」「知識の見える化」の3つについて、それぞれ「可視化」「標準化」「共有化」を行っています。組織の透明性を高めてガバナンスを効かせることと、業務の無駄を省き生産性を向上させることが目的です。例えば、社員に自分の行なっている一つ一つの業務を「プロセスシート」と呼ばれるシートに記入してもらい、他の社員の仕事と重複している作業や不要な作業を浮き彫りにします。

門下社長が「見える化」を推し進めるのは、「100人・100億・1,000万」という目標を掲げているからです。「100人の社員で売上100億円を目指し、社員一人あたりの給与を1,000万円にする」という壮大な目標です。すでに同社は社員一人当たりの売上が業界平均より大幅に上回っていますが、目標を実現するためには「見える化」による生産性向上が必要不可欠です。

 

社員が楽しく仕事に取り組めるような新社屋を建設中

門下社長は、社員が働きやすい環境づくりにも熱心に取り組んでいます。例えば、自動販売機の飲み物無料化やオフィスでのBGM導入。賞与は会社の経常利益の3分の1を還元し、社員が努力して売上を上げたり、コストを削減したりして利益が上がれば、社員に返ってくる仕組みです。こうした社員に還元する一連の取り組みが、直近3年間で離職者がたった一人という結果につながっています。

社員がさらに働きやすい環境を整えるために、本社から300メートルほどの場所に新社屋を建設中で2027年3月の完成予定です。建築士の資格を持つ門下社長は、新社屋にかける思いについて熱く語ります。

「社員が出社したくなるような、楽しく仕事ができる事務所をイメージして作っています。建物が人に与える影響は偉大です。良い環境に身を置くことで、社員のモチベーションやエンゲージメントが向上するでしょう。建物の中央に中庭、屋上には庭園と遊歩道を作り、社員が一日中デスクに座っているのではなく、自然を感じてリフレッシュできるようにしたいと考えています」。

 

さらに、現在の社屋は研修センターとしてリニューアルを予定。1階は作業スペース、2階は研修室、3階はフィットネスクラブとする構想で、浴槽やサウナ、門下社長の趣味でもある座禅の部屋も設ける予定です。

 

自然体のSDGs経営がPIFへ

同社は多摩信用金庫から「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」を受けています。PIFとは、事業活動を通じて経済・社会・環境に対してプラスの影響があるものを増大させ、マイナスの影響があるものを管理・低減することを目標とする企業に対して行う融資です。同社のSDGs経営や人的資本経営などが評価され、多摩信用金庫において初めてのPIF案件となりました。門下社長は「長年、SDGs経営を会社の基本姿勢として取り組んでいるため、PIFのために大きな準備をしたわけではありません。今後PIFを人的資本の強化、特に『Hama College』の充実にあてたいと考えています」。

最後に、これからSDGs経営に取り組む企業に向けて、門下社長は次のようなメッセージを送ります。

「SDGsの17の目標をすべて網羅的に取り組もうとすると、なかなか大変です。事業内容とはかけ離れたことをしようとすると徒労に終わる可能性があるため、自社の事業内容に親和性のあるところから取り組んでみるのをおすすめします。弊社もそうですが、「とりあえずやってみる」姿勢が大切です。事業内容と関連のあることを、小さくても構わないので、まずは取り組んでみてはいかがでしょうか」。

 

会社概要

社名:濱坂電機株式会社

所在地:東京都日野市旭が丘3丁目2番地の5

創業:1955年

事業内容:工場、その他建築物の各種電気設備の設計、施工及び監理

FA設備、各種制御機器の設計、製作及び据付工事

制御用ソフトウェアの作成、省エネ・原価削減提案

電気材料、電設資材の販売と卸

取締役社長:門下 和夫

従業員数:85名 (2025年4月) ホームページ:https://hamasaka.biz/

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