国境なきウェルビーイング【TOKYO UPDATES】

TOKYO UPDATES
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ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社の創業者で代表取締役社長を務める白瀧康人氏は、職場向けの多言語メンタルヘルス支援の構築に情熱を注ぐ

 
 東京は世界でも屈指のダイナミックさを持ち、多様性に富んだ労働市場である。2025年10月時点、都内で働く外国人労働者は65万人を超えており、言語、インクルージョン(包摂性)、職場のウェルビーイングといった課題はもはや周縁的なものではなく、この都市が機能するための中核となっている。

東京は職場のウェルビーイングの世界的なテストケース

 「ウェルビーイングを創造する」。これが、ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社(UHC)が掲げるシンプルなミッションだ。具体的には、組織運営を支える人々の毎日の健康を左右する要因を、組織が理解できるように支援し、その知見を職場の明確な改善につなげていくことを意味する。

 同社の創業者で代表取締役社長を務める白瀧康人氏は、「私たちは働く人のウェルビーイングにフォーカスしています。人々が求めるものは経済的成功やキャリアアップだけではありません。仕事の意味とは何か、それがいかに良い人生につながるのかを知りたいのです」と語る。

 この問いは、東京ではとりわけ重要な意味を持つ。日本国内の最大の労働市場であり、最も国際色豊かな都市の一つである東京では、人口構造の変化が単一の大都市圏システムの中に凝縮されている。東京労働局によると、2025年10月末時点の管内の外国人労働者数は65万2,251人であり、全国合計の257万1,037人とともに過去最多を更新した。このような環境において、職場のウェルビーイングを言語、文化、組織設計といった課題と切り離すことは不可能だ。

 白瀧氏にとって、多様性にあふれる東京は単なるビジネスの拠点ではない。そこは現実世界における実験の場だ。「東京でこうした困難を解決できれば、その解決策は国外にもインパクトを与えるでしょう」と彼は語る。

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UHCの統合職場支援パッケージ「Wity(ウィティ)」の概要。「気づく」、「学ぶ」、「行動する」の三つのステージで構成されている Image: courtesy ofユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社

行動科学の視点で支援を設計する

 UHCのアプローチの根底には行動科学があり、何が健康的なのか理解していても、それが自動的に行動につながるわけではないという認識に立っている。多くの職場において、従業員はバランス、コミュニケーション、早期介入の重要性を理解している。しかし時間的な制約や上下関係、暗黙のルールによって、それを支援する行動が阻まれることが多い。白瀧氏は、「人が常に理想的な行動を取れるのなら、多くの問題は起きないはずです。しかし組織は複雑なシステムなのです」と語る。

 例えば、同僚が苦労していることに気づいたのに、ためらって声を上げられないかもしれない。あるいは管理職としてチームの士気を高めたいのに、問題の根本原因がはっきりとわからないかもしれない。行動科学はこうしたパターンを解きほぐし、支援的な行動を特別なものにせず、実践が容易なシステムを設計することに役立つ。

 このような理念の下に生まれたのが、UHCの統合支援パッケージ「Wity(ウィティ)」だ。日本ではストレスチェックは普及しているものの、その後のフォローに課題があることが多い。その点Wityは、評価、分析、計画的なフォローアップを提供するエンドツーエンドのサービスと位置付けられている。日本語のほか英語、中国語、ベトナム語、ネパール語、ポルトガル語の5言語に対応しており、ストレスレベルの測定だけでなく、組織の具体的な優先事項を特定して、それに対処する管理職を支援することも目的とする。

 白瀧氏は、同じ社内でもチームが違えば抱えているプレッシャーも違うと強調する。過剰な業務負荷に苦しんでいるグループもあれば、コミュニケーションが断絶しているグループもあるかもしれない。環境的な問題が士気に影響しているグループもあるかもしれない。このような違いを可視化することで、組織は漠然とした懸念から的を絞った改善へと前進できるのである。

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より健全な職場を作る上でのインクルージョンの重要性を語る白瀧氏

翻訳を超えてインクルージョンへ

 世界中から集まった何十万人もの労働者が経済を支えるこの都市において、言語の問題は避けて通れない。細かな感情を表現するのは母国語が最も楽である。メンタルヘルスのようなデリケートな話題の場合はなおさらだ。

 しかし白瀧氏は、多言語サポートを単なる翻訳以上のものとして捉えることを心掛けている。もっと深い問題はインクルージョンだという。つまり、従業員が懸念を声に出せるほど、自分が組織の一員だと十分に感じられているかどうかである。

 外国人労働者をひとくくりに扱うことはできない。ホワイトカラーの専門職が抱えるストレスは、社会的な疎外感や、暫定的な存在として扱われている感覚に起因しているかもしれない。製造現場や屋外作業の労働者は、コミュニケーションの壁に加えて、体力的な厳しさに直面しているかもしれない。この場合、それぞれに異なる対応が必要である。

 このように違いがある中、白瀧氏が中核テーマとして立ち戻るのが「つながり」だ。強固な人間関係と高いウェルビーイングの関連性は、各種調査で繰り返し示されている。職場に当てはめて言えば、同僚や上司から見てもらえる、聞いてもらえる、支えてもらえると感じているかということだ。

 さらに彼は、日本の派遣労働システムの構造的な複雑さも指摘する。「場合によっては、労働者の法律的な雇用主である企業と、実際の日々の勤め先である企業が異なることがあります。ストレスチェックで問題が判明しても、書類上の雇用主に職場環境を変える権限がない可能性があるのです」

 このようなギャップが原因で、課題が可視化されても解決が難しい場合があると白瀧氏は指摘する。この点に対処するべく、彼のチームは労働者の置かれている状況や有効な改善策の概要を説明するレポートを作成し、派遣会社がクライアント企業に提出できるようにしている。目指すのは、ウェルビーイングを個人の問題として捉えるだけでなく、職場の安定やパフォーマンスに直接影響する要素と位置付けることである。

職場の慣行を東京都の政策ビジョンと結び付ける

 東京都多文化共生推進指針では、外国人と日本人の住民が地域社会の一員として共に参加・活躍する社会というビジョンが明示されている。白瀧氏は、職場の取組を、このような広範な施策とより密接に結び付けていくことに可能性を見いだしている。中でも重視するのが、来日した人々が生活と仕事の両面で日本に適応する着任初期の段階だ。「来日直後の人々のための、もっと構造化されたプロセスがあれば、仕事面はもちろん、社会への定着という面でも彼らを支援できるでしょう」

 また、企業単体の取組に限界があることも指摘する。雇用、文化的統合、メンタルヘルスリテラシーを一体的に捉えた、より協調的なアプローチを用いれば、幅広い分野で横断的に成果を強化できる可能性がある。

 白瀧氏にとって、メンタルヘルスは特別な付加要素ではなく、社会の基盤となるインフラである。「ウェルビーイングは人間関係と密接に結び付いています」と彼は語る。東京のようなダイナミックで多様性のある都市では、人間関係の形成と再形成が絶えず繰り返されている。

 白瀧氏の目標は一貫している。それは、文化の違いを尊重しつつ共通基盤を強化するような方法で、問題が深刻化する前に人々を支援するシステムをつくることだ。国際化が進む東京の労働環境において、このアプローチは、ウェルビーイングを個人の負担ではなく社会全体の責任と位置付けるものである。

白瀧康人

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東京を拠点とし2013年に設立されたヘルスコミュニケーション・コンサルティング会社、ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社(UHC)の創業者で代表取締役社長。ギャラップ・オーガニゼーションや伊藤忠商事グループ会社等でのリサーチおよび経営コンサルティング業務を経て現職。
UHCでは、統合支援パッケージ「Wity(ウィティ)」など、行動科学に基づいたエビデンスベースの職場ウェルビーイングソリューションの開発を主導する。マンチェスター大学でMBAを取得。

ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社

https://www.uhc.jp/
取材・文/リサ・ワリン
写真/井上勝也
翻訳/友納仁子
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