Tokyo Embassy Talk:ザンビアと日本が築く共生的パートナーシップ

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トバイアス・ムリンビカ大使。東京の駐日ザンビア大使館にて

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 ザンビアと日本は2024年に国交樹立60周年を迎えた。2023年より駐日ザンビア大使を務めるトバイアス・ムリンビカ大使が、東京の印象、二国間関係の歴史、そして両国が技術、資源、文化交流における互いの強みをどう生かしていけるかについて語った。

日本生活の印象

 ムリンビカ大使は、2023年に東京に赴任した。それ以前は、長年ザンビアの上級公務員として活躍し、国立行政学校の長を務めたほか、公共サービス改革、貿易、投資など幅広い分野に携わってきた。日本の生活に慣れるには多少の調整が必要だったが、意外な快適さもあった。

 「もちろん、その国の文化に適応しなければなりません」と大使は話す。「日本は秩序を大切にする国です。食べ物も違いますが、慣れなければなりません。でも、寿司は大好きで、来日して最初に探し求めたのが寿司でした」

 サツマイモやピーナッツ、キャッサバ、サツマイモの葉といった故郷で慣れ親しんだ食品を東京で見つけたのもうれしかったという。「どことなく、故郷にいるような気がしました」。シマ(トウモロコシの粉を使ったザンビアの料理)はそう簡単には見つからないが、代わりに米とジャガイモが心の慰めになっている。

 東京の暮らしは、平穏であると同時に活気に満ちているとも大使は言う。「家にいると、世の中がまったく動いていないように思うかもしれません。しかし、渋谷や銀座に出かけると、そこは多様性と活気に満ちあふれています。東京は実に印象深い都市です」

ザンビアの自然の恵みと地理的特長

 ムリンビカ大使は、ザンビアならではの強みをアピールするのに熱心だ。「ザンビアは、アフリカ南部の中心に位置しています。魅力的な天然資源のほか、ゾウ、ライオン、キリン、カバなどの野生動物や世界自然遺産に指定されているビクトリアの滝などの素晴らしい観光資源に恵まれています。心の安らぐ場所です。かつては『太陽の国ザンビア』というキャッチコピーが用いられたこともありました」

 ザンビアは、タンザニア、マラウイ、モザンビーク、ジンバブエなどの8カ国と国境を接し、地域の交易拠点の役割を果たしている。「南アフリカ共和国へは飛行機で2時間です。ザンビアから周辺地域には簡単にアクセスできます」

 食もザンビアのアイデンティティの一部として欠かせないものである。大使はザンビアの牛肉産業の強さ、中でも長年の実績のあるザンビーフ社について触れ、笑いながら、同国の名物料理であるTボーンステーキについてこう話した。「一度食べたら忘れられませんよ。日本で一般的に目にするステーキよりもはるかに大きいのです」。ザンビアの牛肉と地元のビールとを合わせて楽しむのは格別だそうだ。

60年にわたる友好関係

 ザンビアと日本は、2024年に国交樹立60周年を迎えた。

 両国の関係は、ザンビアにとって非常に象徴的なものである。ザンビアは、1964年の東京オリンピックとちょうど同じ時期に独立を果たし、閉会式ではオリンピックの舞台で初めて同国の国旗が掲げられた。

 「その時からずっと、私たちは前進し続けています」とムリンビカ大使は振り返る。「両国は保健、教育、インフラ、文化交流の面で協力してきました。これこそ真の共生関係です」

 長年の絆は今も揺らいでいない。大使は2024年に横浜市立大学で講演し、日本の学生にザンビアの歴史を紹介した。そしてその中で、「一つのザンビア、一つの国」というモットーのもとで培われた、同国の民主主義の伝統や73の異なる民族間の団結について語った。

 「これだけの多様性がありながら、どうしたら政権を平和裏に交代させることができるのかと、多くの学生から尋ねられました」と大使は話す。「答えは、先人たちが結束の基盤をしっかりと築いてくれたことにあります。私たちは、何よりもまずお互いを人間として認め合っています」

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天然資源や先端技術を通じて互いに成長し合う両国の「共生関係」を強調するムリンビカ大使

投資、教育、文化を通じて交流を促進

 東京に赴任して以来、ムリンビカ大使と同僚らは、実務的な分野での協力強化を重視している。大使館は、日本企業や独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構などの団体の協力により、鉱業分野の投資促進ミッションの派遣を実現した。その結果、すでに新たな協定が締結されたほか、重要鉱物のサプライチェーン構築の検討も始まった。

 協力は、鉱業以外に保健、農業、教育分野にも広がっている。ザンビアの病院には日本の移動型X線装置や診断技術が導入され、農業分野では稲作や畜産開発のプロジェクトが行われている。独立行政法人国際協力機構(JICA)や日本の大学との交流を通じ、文化や教育面でのつながりも強化されている。

 最近では、日本企業が開発した大気中の水分を集める技術が導入され、現在ザンビアで試験が行われている。「雇用を創出し、人々の福祉を向上させるプロジェクトに力を入れていきたいと思います」と大使は言う。「わが国が資源を提供する一方で、日本企業にはザンビアに投資し、現地で付加価値を生み出してほしいです」

 大使は今後の重点分野として、インフラと付加価値の創造に注目している。「ザンビアは、原料の輸出にとどまらず、国内に雇用を生み出す産業を育てていくことを目指しています。貧困の削減と人材育成を両国の協力の中心に据えなければなりません」

象徴、発見の都市、東京

 多くのザンビア人にとって東京は、独立国として初めてオリンピックに参加した地として記憶に残る特別な場所である。そして、今日の東京は技術の進歩と現代的な都市生活の象徴である。

 「東京を訪れるザンビア人は、スマートシティを目にすることを期待しています」と大使は話す。「つまり、清潔で、効率的で、安全な都市です。皆、このハイテク都市を自ら体験してみたいのです」。ムリンビカ大使自身は、東京の観光名所も、日常生活の中のちょっとした慣習も好きだ。東京スカイツリーも印象的だった。東京タワーからの眺めよりも気に入っているという。羽田空港では初めて地震を体験し、建物が安全にしなる様子に驚嘆した。

 公共交通機関も注目すべき点だ。「週末にはマイカーではなく、電車を利用しています。効率が良く、教会にも遅れずに行けます。車だと渋滞や駐車で時間がかかってしまうことがありますが、電車ならすべてがスムーズです」

 大使は、忠犬ハチ公像近くの渋谷スクランブル交差点で人間観察をするのも好きだ。「新鮮な気持ちになりますよ。大勢の人が、それぞれ自分の世界に入り、思い思いの方向に移動しているのを見ていると、人生について考えさせられます」

ガーデニング、食、東京での日常

 忙しい外交日程の中でも、時間を見つけて公邸で庭仕事をしているムリンビカ大使。「私は田舎者ですよ」と笑う。

 「農村で育ったので、ずっと庭仕事や動物を育てるのが好きでした。東京では、ホウレンソウやケールを植えました。今は、冬にサツマイモが育つのを楽しみにしています」

 これは単なる趣味ではなく、ザンビアの農業と自給自足の伝統を身近に感じ続けるためにやっていることでもある。大使夫人も自宅でザンビア料理を作り、母国の味を東京で楽しませてくれる。

 大使は、いつか東京の人々が専門店で自国の食文化を直に体験できればと願っている。「食は文化交流に欠かせません。東京にザンビア料理店を開くことができたら、サツマイモの葉や牛肉など我が国の味を皆さんに堪能してもらえるでしょう」

共に成長する未来へ

 自身の東京での経験から、ムリンビカ大使は両国には文化的な類似点と協力の機会があると語る。「日本では人との距離感や個人の権利が尊重されていると思います。ザンビアでも人々は温かく、親しみやすく、友好的です。どちらの国にも、平和で円満に暮らしたいという思いがあります。

 今後は、特にグリーンエネルギー、農業、気候レジリエンスの分野において、ザンビアの天然資源と日本の先端技術を組み合わせることに、大使は大きな可能性を見いだしているという。そしてこう結んだ。「両国の関係は、共生関係です。私たちは力を合わせ、産業の育成、雇用創出、未来に向けたソリューション開発に取り組んでいくことができます」

トバイアス・ムリンビカ

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2023年に駐日ザンビア共和国大使に就任。ザンビアの公共部門で長年活躍し、国立行政学校の長を務めたほか、貿易・投資政策に従事してきた。オランダのマーストリヒト経営大学院で経営学修士号と経営学博士号を取得したのをはじめ、他の学位や資格も保有。生涯にわたり教育、ガバナンス改革、持続可能な開発の推進を提唱し、技術、投資、文化交流におけるザンビアと日本の関係強化に力を注いでいる。

取材・文/リサ・ワリン
写真/藤島亮
翻訳/喜多知子

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