都心の天空に創出した緑地に多様な生物が共生

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貴重な緑化空間でもある大橋ジャンクション Photo: courtesy of 首都高速道路株式会社
 都心を走る高速道路のジャンクションに、豊かな自然を誇る緑地がある。首都高速道路株式会社が管理・運営するおおはし里の杜だ。高速道路に設置されたトンネルの換気を担う換気所の屋上という特殊な空間を利用し、かつての草地や樹林を再生して、多様な生きものの生息空間を創出する。

 

高速道路のジャンクションに育つ三つの緑

 首都高速3号渋谷線と中央環状線(山手トンネル)が接続する大橋ジャンクションは、首都圏の交通アクセスを支える要所の一つ。ここは、大橋グリーンジャンクションと銘打つ緑豊かな施設でもある。都心の緑化空間として、地域の環境課題解決に熱心に取り組んでいるのだ。

 なぜこのような空間が誕生したのか。首都高速道路株式会社の伏屋和晃氏に聞いた。

 「大橋ジャンクションの建設にあたっては、地域住民や目黒区、東京都など関係機関の方々と対話をしながら計画を進めました。当時、課題として共有したのが、環境への配慮や街の分断が起きないようにすることでした。そこで大橋ジャンクションでは、3種類の緑の整備を進めました」

 

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高層マンションや高速道路のすぐ隣に広がるおおはし里の杜

 そのうちの一つが、かつてこの地域に存在した豊かな自然の再生を目指したおおはし里の杜の「自然再生の緑」で、大橋ジャンクションの中心部分に設けられた換気所の屋上に整備されている。

 あとの二つは、大橋ジャンクションの屋上を回遊する目黒天空庭園の「公園の緑」と、壁面を直接登攀(とうはん)するつる性植物によって壁を緑化する「街並みの緑」だ。目黒天空庭園は、地域住民の日常的な憩いの場としても機能している。

 

大橋ジャンクションの空撮写真。屋上にはおおはし里の杜や目黒天空庭園がある Photo: courtesy of 首都高速道路株式会社

大橋ジャンクションの空撮写真。屋上にはおおはし里の杜や目黒天空庭園がある Photo: courtesy of 首都高速道路株式会社

目黒川の景観と調和するつる性植物(オオイタビ)に覆われた大橋ジャンクションの壁面

目黒川の景観と調和するつる性植物(オオイタビ)に覆われた大橋ジャンクションの壁面

首都高速道路株式会社の伏屋和晃氏(左)と加藤千裕氏(右)

首都高速道路株式会社の伏屋和晃氏(左)と加藤千裕氏(右)

おおはし里の杜に流れる小川

おおはし里の杜に流れる小川

この日は稲わらでほうきを作っていた

この日は稲わらでほうきを作っていた

水中にはヤゴやメダカの姿も

水中にはヤゴやメダカの姿も

秋の七草の一つオミナエシ

秋の七草の一つオミナエシ

目黒川周辺で自生していたミソハギ

目黒川周辺で自生していたミソハギ

6月から8月にかけて咲くキキョウ

6月から8月にかけて咲くキキョウ

ヤブツバキは夏に赤い実をつける

ヤブツバキは夏に赤い実をつける

栽培している米の品種はふさこがね

栽培している米の品種はふさこがね

おおはし里の杜ではさまざまな種類の花を観察することができる

おおはし里の杜ではさまざまな種類の花を観察することができる

一般公開日にはこのようなウェルカムボードが設置されている

一般公開日にはこのようなウェルカムボードが設置されている

オオタカと水田をモチーフにしたスタッフの作業着

オオタカと水田をモチーフにしたスタッフの作業着

緑地は昭和初期の目黒川流域をイメージ

 おおはし里の杜は、かつて目黒川流域に広がっていた、人と自然との関わりが豊かだった昭和初期の原風景をイメージして、2011年に整備された。地上約30メートルの屋上までクレーンを使って土を運び、その土が雨などで流れてしまわないよう特殊な加工を施すなど、整備にはさまざまな工夫が必要だった。

 こうして完成した約900平方メートルの空間は、草地と水田、さらに換気所の屋根の勾配を利用した斜面林と小川、その水が流れ込む池で構成され、多様な生き物が生息・生育している。

 「階段状になった段丘、湿地や水田など目黒川周辺の地形に近い形になるような設計で、紫色の花を咲かせるミソハギや黄色い小さな花を咲かせるオミナエシ、ヤゴなど目黒川周辺でよく見られた生き物も多数存在しています」

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水田や小川の水は全て雨水を再利用している

 

約460種の生き物たちの活動場所に

 確認できる動物は年々増えている。整備当初は約80種だったが、昨年度は約240種に、そして植物も合わせると約460種にまで増えているというから驚きだ。

 「植物の種類が増えると、その植物を餌にする昆虫が増え、植物が成長して木陰が増えると、そうした場所を好む動物が増えます。結果、年々多様性が高まっています。2019年には初めて、猛禽類のオオタカが飛来し、以降毎年確認されています。ほかの希少種の鳥類や昆虫類なども増えていますが、この状況は、おおはし里の杜だけで成し得たのではなく、目黒川や明治神宮、代々木公園など近隣の緑をつなぐ生き物たちのネットワークが形成されていることを意味します」

 生き物たちは周囲に点在する緑地を移動しながら、都心暮らしを続けているのだ。オオタカもおおはし里の杜で捕食活動をする姿が認められているが巣は見つかっておらず、どこか別の場所に拠点を持つと推測されている。植物の種子が別の緑地から飛来することで新たな種が生育することも多い。

 こうした生物の多様性を保全するネットワークをエコロジカル・ネットワークと呼ぶ。おおはし里の杜は、地域のエコロジカル・ネットワークの一拠点として機能している。

 おおはし里の杜は、年に数回一般公開するほか、近隣の小学生を招待し、自然観察会や田植え、稲刈りなどの稲作体験を実施し、環境教育の場としても活用されている。

 一般公開情報は、首都高速道路株式会社の環境特設サイト「shuto-E-co」で告知。入場は無料で、事前予約は不要なので、誰でも参加可能だ。

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小学生を対象にした自然観察会の様子 Photo: courtesy of 首都高速道路株式会社

 

外部からも高い評価を受けるように

 こうしたおおはし里の杜の取組が評価され、2023年度には環境省の「自然共生サイト」に認定。2024年度には第5回グリーンインフラ大賞の国土交通大臣賞を受賞するなど、外部からの評価も高まり、注目が集まっている。

 「先日も生態系に興味を持つ学生の方から問い合わせがありました。今後はさらに発信に力を注ぎたいと思っています」と広報を担当する加藤千裕氏。

 「公式SNSでも、首都高に関するさまざまな写真・動画のほか、イベント情報等を発信しています」

 今後の展望について伏屋氏は以下のように語った。

 「環境への取組は、継続することで少しずつ成果が積み上がっていくものですから、これからもじっくり継続していきます」

 都市に創出された緑地空間は、訪れる人たち、そして多様な生物たちにとって心地よい居場所となっている。企業が環境課題に取り組む先進事例の一つとして、これからも着実に成果を積み上げていく。

 

伏屋和晃氏(左) 加藤千裕氏(右)

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伏屋和晃
首都高速道路株式会社 東京西局 調査・環境課係長。2023年よりおおはし里の杜の維持管理を担当。生物多様性保全の推進のほか、イベント等を企画・運営し、おおはし里の杜を通じた地域社会との共生を図っている。

加藤千裕
首都高速道路株式会社 CS・サステナビリティ推進部 サステナビリティ推進室 脱炭素社会推進課係長。首都高カーボンニュートラル戦略の推進を担当。その一つとして、生物多様性保全施策に関する対外発信等の立案・調整を行っている。

 

首都高速道路株式会社 環境特設サイト「shuto-E-co」

https://www.shutoko.jp/ss/shutoeco/kankyo/ohhashinosato.html

 

首都高速道路株式会社 X公式アカウント

https://x.com/ShutokoOfficial

 

首都高速道路株式会社 Instagram公式アカウント

https://www.instagram.com/shutoko_official/

 

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東京都は、100年先を見据えた"みどりと生きるまちづくり"をコンセプトに、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組を進めています。
企業など様々な主体との協働により、「自然と調和した持続可能な都市」への進化を目指しています。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/tokyo-greenbiz-advisoryboard

取材・文/今泉愛子
写真/穐吉洋子
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