【井の頭自然文化園】コールダックの人工育雛

東京ズーネット
井の頭自然文化園の水生物園では、今年(2025年)3月と4月に計3羽のコールダックのひなが孵化しました。

 当園のコールダックは群れの高齢化が進んでいたため、昨年6月、札幌市円山動物園から若いメス2羽を譲り受けて繁殖に取り組み、この2羽が産卵した卵からヒナがかえりました。

 コールダックはアヒルの一品種で、アヒルは野生のマガモを元に改良して作られた家禽です。しかし、家禽化の過程で子育て行動が失われたのか、コールダックは抱卵も子育てもしない個体が多く、井の頭自然文化園では人の手で卵やひなを育てています。コールダックのひなは孵化翌日から自分でえさを食べたり、泳いだりすることができるので育てやすいのですが、丈夫なひなを育てるためにはいくつか気を付けなければいけない点があります。

 卵は孵卵器で約26日間温めると孵化しますが、自力で卵から出られないときには殻の一部を少し割って手助けをします。孵化直後のひなはわずか体重30gほどで、羽毛はまだ濡れていて体もあまり動かせませんが、翌日には羽毛が完全に乾き、えさを食べ始めます。

 ひなは、まわりのものをなんでもつついたり、まわりの個体の行動を学習し同じ行動をとったりする習性があります。ひなが2羽以上いると競争するかのようにえさを食べるようになるのですが、今回孵化した3羽のうち1羽は単独での孵化だったため、なかなかえさを食べませんでした。そこで、通常は粉末で与えるえさを練りえさ状にして給水器などにはりつけたところ、よく食べるようになりました(写真1)。また、落ち着かないようすのときは群れる習性を利用して、鏡やアヒルの人形を置いて仲間がいるように思わせ、安心できるようにしました(写真2)。
 
写真1:えさをつつく2日齢のひな
写真2:鏡前で落ち着いた様子の2週齢のひな

 孵化後1か月程は羽毛の保温機能が未熟なため、しっかりと温める必要があります。最初の10日間はヒーター付きで温度を調節できる「育雛箱」というケージを使いました(写真3)。
 

写真3:育雛箱

 その後は、ひなの成長に合わせてえさや飼育ケージを徐々に大きくし、屋外にも慣らしていきました。丈夫な体を作るためには日光浴がとても大切です。

 また、脚や羽毛の成長にも注意を払います。床にはすべりにくいマットを敷き、ひなの脚が開脚したりせず、正常に発達するよう促しました。翼の羽毛が急速に発達する1か月齢以降は羽毛の重みで翼が垂れ下がりやすい時期ですが、運動量を増やしたり、えさの量を調整したりすることで予防しました(写真4)。
 

写真4:急速に発達を始める1か月齢頃のひなの翼

 現在、ひなたちは順調に成育し、コールダック舎で群れと柵越しにお見合いをしています(写真5)。ひなの成長は早く、2か月経つ頃には成鳥と変わらないサイズになります。ひなの特徴であるやわらかな黄色い羽毛もその頃にはすっかりおとなのしっかりとした羽毛に生え変わり、その後1〜2か月かけて羽毛の色が黄色から白へと変わっていきます。黄色い姿が見られるのは今だけなのでぜひ早めに会いに来てください。
 

写真5:コールダック舎で群れとお見合い


〔井の頭自然文化園水生物園飼育展示係 下川〕

◎関連記事
今年も水鳥のひながたくさん育っています(2014年07月11日)
関連ワード
カテゴリ
タグ