【井の頭自然文化園】ハヤブサの繁殖に向けた取り組み
井の頭自然文化園では、現在4羽のハヤブサを飼育しています。4羽とも野生でけがをしているところを保護され、2011年と2022年に来園しました。うち2羽を非展示エリアで飼育し、環境を整えた静かな場所で繁殖をめざして取り組んでいます。繁殖のためには、飼育環境やペアの相性、個体の体調などさまざまな条件を整える必要があります。今回は過去5年間の取り組みについて紹介します。

現在ペアリングをしている雄雌
野生のハヤブサは自分で巣を作らず、崖のくぼみや岩棚などに直接産卵します。井の頭自然文化園でも地面に産卵し抱卵していましたが、2021年はこの場所に雨水が溜まってしまったため、抱卵を続けることができませんでした。
そこで、翌2022年は砂利を入れて雨水が溜まらないように雨対策をしました。さらに底に穴をあけた衣装ケースを抱卵場所として用意しました。ペアが警戒しないか心配しましたが、この場所で産卵し、抱卵もするようになりました。しかし、この卵は無精卵だったため、孵化することはありませんでした。

2022年に設置した衣装ケース
雨対策前の産卵場所
雨対策後の産卵場所
また、産卵期前にメスが体調を崩すことが多かったためえさを見直しました。多くの鳥類が繁殖期前にたくさんの栄養を必要とすることから、今まで与えていなかったウズラを追加したところ、メスは体調を崩すことなく産卵することができました。さらに、交尾や抱卵などの行動をより詳しく観察するために監視カメラを設置しました。
このような対策をしたところ、今年は交代しながら3つの卵を抱卵し続けてくれました。今度こそは孵化するかもしれないと期待をしていましたが、残念ながらすべて無精卵でした。
しかし、監視カメラによって交尾が成立していることが確認できたこと、オスとメスの抱卵時間や行動を記録することができたことなど、今期は今までになかった知見を得ることができたと考えています。無精卵だった理由については、さらなる検討が必要だと考えています。
交尾のようす
自然界のハヤブサは、個体数が増えている地域もありますが、まだまだ少なく、環境省のレッドリストでは絶滅危惧種に指定されています。そのため、動物園で繁殖に成功させることは、種の保存や生態系の保全において重要な意味をもちます。
飼育下での繁殖成功例は数が少なく非常に難しい試みですが、過去の飼育記録をもとに今後も繁殖に向けた取り組みを続け、成功を目指して努力を続けていきます。
〔井の頭自然文化園飼育展示係 金子〕
(2025年06月09日)

現在ペアリングをしている雄雌
野生のハヤブサは自分で巣を作らず、崖のくぼみや岩棚などに直接産卵します。井の頭自然文化園でも地面に産卵し抱卵していましたが、2021年はこの場所に雨水が溜まってしまったため、抱卵を続けることができませんでした。
そこで、翌2022年は砂利を入れて雨水が溜まらないように雨対策をしました。さらに底に穴をあけた衣装ケースを抱卵場所として用意しました。ペアが警戒しないか心配しましたが、この場所で産卵し、抱卵もするようになりました。しかし、この卵は無精卵だったため、孵化することはありませんでした。

2022年に設置した衣装ケース
無精卵だった理由として、オスが関係していると考えられます。このオスは保護されたときから右の翼をうまく使うことができませんでした。オスが交尾姿勢をうまく保てずに交尾が成立していないのではと考えたため、2023年はオスを交代することにしました。
産卵した卵は無精卵でしたが、本来ペアが交代で抱卵するはずなのに、途中で抱卵をやめてしまいました。今度は交代したオスとメスとの相性が悪かったと考えられます。そのため、翌2024年は相性のよかった元のオスにペアの相手を戻しましたが、残念ながら産卵前にメスが体調を崩してしまったため、繁殖にともなう負担を考え、この年は繁殖させないことにしました。
2025年は、今までの経験からさまざまな対策をおこないました。飼育環境を改善するために、雨対策として産卵場所の周りまで砂利を敷く範囲を広げ、屋根となる板を広くしました。


また、産卵期前にメスが体調を崩すことが多かったためえさを見直しました。多くの鳥類が繁殖期前にたくさんの栄養を必要とすることから、今まで与えていなかったウズラを追加したところ、メスは体調を崩すことなく産卵することができました。さらに、交尾や抱卵などの行動をより詳しく観察するために監視カメラを設置しました。
このような対策をしたところ、今年は交代しながら3つの卵を抱卵し続けてくれました。今度こそは孵化するかもしれないと期待をしていましたが、残念ながらすべて無精卵でした。
しかし、監視カメラによって交尾が成立していることが確認できたこと、オスとメスの抱卵時間や行動を記録することができたことなど、今期は今までになかった知見を得ることができたと考えています。無精卵だった理由については、さらなる検討が必要だと考えています。
交尾のようす
自然界のハヤブサは、個体数が増えている地域もありますが、まだまだ少なく、環境省のレッドリストでは絶滅危惧種に指定されています。そのため、動物園で繁殖に成功させることは、種の保存や生態系の保全において重要な意味をもちます。
飼育下での繁殖成功例は数が少なく非常に難しい試みですが、過去の飼育記録をもとに今後も繁殖に向けた取り組みを続け、成功を目指して努力を続けていきます。
〔井の頭自然文化園飼育展示係 金子〕
(2025年06月09日)