東京のファッションに導かれて

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東京のファッションに導かれて

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『ヴォーグ ジャパン』のヘッド・オブ・エディトリアル・コンテント、ティファニー・ゴドイ氏 写真提供/内山拓也
 東京のファッションシーンは他に類を見ないものだ。そのことを誰よりも知るのが、『ヴォーグ ジャパン』のヘッド・オブ・エディトリアル・コンテント、ティファニー・ゴドイ氏である。ゴドイ氏は1997年に東京へ来て以来、東京の多様な美を記事に取り上げ、ひもといてきた。ストリート系からランウェイのファッションまで、この街にしかないファッションシーンの本質に影響を受け、自らも影響を与えている。
 

カリフォルニアから東京へ

 アルゼンチン系アメリカ人のゴドイ氏は カリフォルニア州ロサンゼルスで育ち、映画や雑誌を通じてファッションに強い関心を持つようになった。そこでファッションを追い求めてパリへ行き、1年間視覚芸術を学んで米国に戻った。帰国後にサンフランシスコのクラブで、アカデミー・オブ・アート大学に通う日本人留学生のグループに出会った。

 「彼らの服装にとても興味を引かれました。非常に変わっていましたから」とゴドイ氏は振り返る。重ね着の仕方から柄の組み合わせ、身のこなしまで、見たことのないものだった。「日本の文化のことは何も知らなかったので、スタイルと自己表現について驚くべき発見がありました」。そのとき知り合った友人たちから、当時の東京のトレンドだけでなく、90年代終盤の音楽や活気あふれる渋谷の情景についても教わった。 

 この友人たちの影響に加え、視覚芸術の勉強を続けたいという思いから、ゴドイ氏は大学を卒業した夏に東京へ向かった。到着するとそこには、これまで訪れたどの場所ともまったく違った都市があった。「欧米から初めて日本を訪れる人は、視覚的な刺激に圧倒されると思います。まるで美しいカオスです」

東京の美しいカオスの中で成功

 ゴドイ氏は、サンフランシスコ時代に築いた繋がりを活かし、東京の活気あふれるファッションとカルチャーシーンにすぐに溶け込み、渋谷近くの駒場のギャラリーで自分の写真作品の展覧会を開いた。日本のファッション誌の編集者も招待し、その中に有名な編集長で書籍も執筆する菅付(すがつけ)雅信氏がいた。海外進出を視野に入れていた菅付氏は、ユニークな先鋭的ファッション誌『コンポジット』と、それを手がける独立系出版社のファッションエディターのポストを彼女に提供した。「インターネットの黎明期という本当に重要な時期に、約3年間そこで仕事をしました。短期間で人脈を広げつつ、海外向けコンテンツをすべて作成し、写真撮影を手配し、雑誌のコンセプトを考えました」 

 ゴドイ氏は、『コンポジット』の仕事と、続く有名雑誌『スタジオボイス』のファッションエディターの仕事によって、刺激と活力に満ちた東京のファッション文化の世界に飛び込むことができた。これがキャリアを築く完璧な足掛かりとなった。その後は一時パリに拠点を移してシャネルやカルティエなどのコンテンツを制作し、『CNN』、『ハイスノバイエティ』、そしてもちろん『ヴォーグ』など、評価の高いメディアに掲載されるようになった。 

 2022年には『ヴォーグ ジャパン』のヘッド・オブ・エディトリアル・コンテントに就任し、ブランドが運営するすべてのプラットフォームを統括するようになった。 

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オフィスの膨大な蔵書の前でインタビューを受けるゴドイ氏

 20年にわたり東京のファッションシーンを探究してきたゴドイ氏の専門知識に疑いを挟む余地はない。『Style Deficit Disorder: Harajuku Street Fashion - Tokyo』、『Japanese Goth』という著書も出版している。これらは東京の有名なストリート系サブカルチャーと、それが世界のファッションに与える影響を研究して論じたものだ。

アーティストの国際的コミュニティの構築

 ゴドイ氏は日本にいる間に、東京とそのファッション業界の進化、中でも国際化の流れを目の当たりにしてきた。「最近は日本とアジアの結びつきがはるかに強くなっていて、楽しみです。例えば、中国でもとりわけ才能ある写真家の1人、ニック・ヤンが来日してこの写真を撮ってくれました」。彼女はそう言って、『ヴォーグ ジャパン』の25周年スペシャルエディションの表紙を掲げた。「日本は東洋と西洋の交差路になっていると思います」 

 このようにアジアの才能ある人材が世界に活躍の場を広げる機会を提供することが、ゴドイ氏にとって大きな原動力となっている。「アジアには、異なる価値基準や労働倫理を持ったエンターテインメント・エコシステムに属する、まったく新しい集団が生まれています。今『ヴォーグ ジャパン』にいるおかげで、彼らと仕事をし、彼らに光を当てられることにワクワクしています。これは他の地域の『ヴォーグ』ではできないことかもしれないので、私は運がよかったと思っています。日本の文化は、Netflixのポップカルチャーから工芸品まで、世界にインスピレーションを与え続けていますから。彼らを『ヴォーグ ジャパン』のプラットフォームで応援し、支援し続けたり、別の地域の『ヴォーグ』プラットフォームに広めたりするのは私たちの使命です」

 こうした国際化の流れは、日本のストリートファッション、特に東京のビンテージファッションに反映されているという。東京のビンテージは評判が高く、ゴドイ氏は「人々はビンテージを買いに東京へやって来ます」として、下北沢や渋谷に高級ビンテージショップが多いことを指摘する。ビンテージブームの背景にあると考えられる理由の1つは、「ファッションが大好きな若者たちの多くが、自分のビンテージショップを始めやすいことです。その品ぞろえにも明確な視点があります。何でもありというわけではないのです。Y2K、昭和、特定のブランドなど、店ごとに強い主張があって、仕入れる時点で狙いがはっきりしています」

 若いファッショニスタには、東京都が主催するNext Fashion Designer of Tokyo(NFDT)やSustainable Fashion Design Award(SFDA)といったファッションコンクールに応募して都から支援を受ける道もある。「どのようなサポートも、その後のフォローがあってこそ意味を成します。それが最も重要なことだと思います。ファッションで本当に大切なのは、人々が形成するコミュニティであり、コミュニティが新しい世界への入口を開いてくれます」。ゴドイ氏自身も、『ヴォーグ』の仕事を通じて、そのようなコミュニティの形成を支えることができる。「写真家、スタイリスト、俳優、デザイナーなどで心から信用できる人がいたら、『ヴォーグ』のコミュニティの誰かに連絡して、『この人は注目する価値がありますよ。この人は応援する価値がありますよ』と話します」。ゴドイ氏はそうやって日本やアジアの人材に世界の舞台を提供しているのだ。

「心から自由になれる場所」

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ゴドイ氏は、お気に入りのレストランの予約が取れなくなったりしない限りは、地元の街の情報を喜んで紹介すると言う。

 ゴドイ氏は、才能ある人材だけでなく、訪れるべき場所や施設の情報もファッションのコミュニティと共有する。ただし、自分の胸にしまっておきたい個人的なお気に入りもある。「門番をしているんです。あまりに多くの人が殺到して、お気に入りのレストランの予約が取れなくなったら困りますから」と彼女は茶目っ気たっぷりに話す。とはいえ、訪れる人には最高のスポットを紹介したいと言う。「古き良き下町の辺りの建築物、書店や画廊が並ぶ神保町周辺、下北沢なども大好きです」

 東京の未来については、ブティックが増えているのがおもしろいと言う。「職人技にフォーカスしたコンセプトショップに関心を持っています。品質を重視し、他の場所では手に入らない日本製の商品を販売している小さなブティックブランドなどです」。また、オンラインショッピングのおかげでセレクトショップが成功しているのは良いことだが、実店舗を訪れることで、その店ならではの個性あふれる魅力に触れられると考えている。「ストリートファッションに関しては、ブティックに入ったときに最大のインスピレーションが得られます」

 東京は、年月を経てゴドイ氏にとって本物のホームタウンになった。「東京が大好きで、他のどの都市よりも長くここに住んでいます。ここは心から自由になれる場所です。東京はどのような価格水準でも、非常に質の高い暮らしができます。これは素晴らしいことです。美味しい食べ物も、美しいアートや建築物も体験できて、移動にもあまりコストがかからず、郊外には豊かな自然もあります。ここにはあらゆるものが揃っています」

ティファニー・ゴドイ
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ゴドイ氏は、東京でファッションエディターとしてキャリアをスタートし、ジャーナリスト、エディター、コンサルタント、ポッドキャストクリエイターとして活動している。過去20年間に制作したコンテンツは、『ヴォーグ』、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『CNNスタイル』『SSENSE』、『ハイスノバイエティ』など数多くのメディアに掲載されている。『Style Deficit Disorder: Harajuku Street Fashion - Tokyo』の著者。また、マルチメディア雑誌兼クリエイティブ・スタジオの『ザ・リアリティ・ショー』の創設者。2022年現在、『ヴォーグ ジャパン』のヘッド・オブ・エディトリアル・コンテントを務める。写真提供/内山拓也
取材・文/ローラ・ポラコ
写真/穐吉洋子
翻訳/伊豆原弓
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