【井の頭自然文化園】オシドリ繁殖ばなし[2]オシドリの保育園
※動物園で観察したオシドリたちの行動をご紹介する「オシドリ繁殖ばなし」。前回「Vol.1 オシドリたちに人気の巣箱」に続き、後編の今回は子育てのようすについてご紹介します。
5月17日
最初に孵化したのは、人気の巣箱で2羽のメスが一緒に温めていた1羽です。この巣箱の中には他にも有精卵があったのですが、2羽のメスが計23個の卵を産んでいたために数が多く、お腹の下の温度が全ての卵にうまく伝わらなかったようです。結果として、23卵のうち孵化したのはこの1羽だけでした。2羽で抱卵していたため、孵化したひなの親がどちらかわかりません。
どちらの母鳥が子育てをするのかな、きちんと自分の子として子育てしてくれるのかな、と担当の私はあれこれ考えていましたが、それは杞憂に終わりました。2羽はひなを他のオシドリたちからしっかり守りながら、母母子の3羽で行動していたのです(写真1)!
父親は?と思った方がいるかもしれませんが、カモ類は一般的に、抱卵も子育てもすべてメスの仕事です。オスは、メスの抱卵が始まると役目を終えたと言わんばかりに巣から離れ、新たなメスを探すことも多くあります。メスが抱卵で忙しいときに身勝手だと思うかもしれませんが、少しでも多くの子を残そうとするこの性質は、自然の理と言えるのかもしれません。

母母子の3羽で行動するオシドリ
5月22日
1羽目のひなが孵化してから5日後、別の巣箱の中から5羽のひなたちが順々に出てきました。しかしオシドリの母鳥は、最後の1羽が巣箱の外へ出るまではずっと中でひなを温め続けます。まだ巣箱の中に母鳥がいるのでどうするのかと不安に思いながら観察していると、一足先に巣箱から出てきた5羽のひなは、なんと、さも当然のように、5日前に生まれた1羽のひなと一緒に、2羽の母鳥に付いていったのです。母鳥たちも、1羽も2羽も3羽も変わらないと言わんばかりに、新たに加わった血の繋がりがないひなたちを次々と受け入れていました。
最後に出てきた5羽目のひなは、最初は実の母鳥に付いていく行動が見られたのですが、何が原因なのか、実の母鳥は追い払うかのようにひなをつつき始めました。そして、このひなもすぐに2羽の母鳥のもとへ。実はこの、他の親のひなを受け入れる行動はガンカモ類でときどき見られる現象で、野生のカルガモなどでも観察されています。集団になることによって、1羽あたりの捕食される確率を減らせたり、捕食者を早く見つけられたりするので、結果的にひなを捕食者から守ることができると考えられています。
もしかすると、2羽の母鳥たちは自分の子と思われる1羽目のひなが生き残る確率を上げるために、他のひなたちを快く受け入れていたのかもしれない、と勝手な想像を膨らませてしまいました。
こうして6羽のひなたちは2羽の母鳥と、さらに途中から2羽の母鳥のペアと思われるオス1羽も加わり、計3羽の親鳥に見守られながら、すくすくと成長していきました。血のつながっていない子が5羽いることに加え、本来子育てには参加しないはずのオスも子育てに参加しているという、なんとも不思議なこの光景(写真2)。たくさんのひなが集まるようすは、まるで”保育園”のようです。

団子になって眠るひなたちを見守る親鳥たち(カラフルな体色の個体がオス)
オシドリたちは野生でも、動物園という小さな世界の中でも、自分の置かれた環境に合わせて行動し、今日を一生懸命生きているのです。
ぜひみなさんも井の頭自然文化園の水生物園に来て、さまざまな発見を楽しんでくださいね。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 田所〕
◎関連記事
・真のオシドリ夫婦(2024年10月03日)
・オシドリ繁殖ばなし[1](2024年12月02日)
Vol.2「オシドリの保育園」
今年2024年初夏に生まれた6羽のオシドリのひなたちは、通常とは少し変わった子育てをされて育ちました。5月17日
最初に孵化したのは、人気の巣箱で2羽のメスが一緒に温めていた1羽です。この巣箱の中には他にも有精卵があったのですが、2羽のメスが計23個の卵を産んでいたために数が多く、お腹の下の温度が全ての卵にうまく伝わらなかったようです。結果として、23卵のうち孵化したのはこの1羽だけでした。2羽で抱卵していたため、孵化したひなの親がどちらかわかりません。
どちらの母鳥が子育てをするのかな、きちんと自分の子として子育てしてくれるのかな、と担当の私はあれこれ考えていましたが、それは杞憂に終わりました。2羽はひなを他のオシドリたちからしっかり守りながら、母母子の3羽で行動していたのです(写真1)!
父親は?と思った方がいるかもしれませんが、カモ類は一般的に、抱卵も子育てもすべてメスの仕事です。オスは、メスの抱卵が始まると役目を終えたと言わんばかりに巣から離れ、新たなメスを探すことも多くあります。メスが抱卵で忙しいときに身勝手だと思うかもしれませんが、少しでも多くの子を残そうとするこの性質は、自然の理と言えるのかもしれません。

母母子の3羽で行動するオシドリ
5月22日
1羽目のひなが孵化してから5日後、別の巣箱の中から5羽のひなたちが順々に出てきました。しかしオシドリの母鳥は、最後の1羽が巣箱の外へ出るまではずっと中でひなを温め続けます。まだ巣箱の中に母鳥がいるのでどうするのかと不安に思いながら観察していると、一足先に巣箱から出てきた5羽のひなは、なんと、さも当然のように、5日前に生まれた1羽のひなと一緒に、2羽の母鳥に付いていったのです。母鳥たちも、1羽も2羽も3羽も変わらないと言わんばかりに、新たに加わった血の繋がりがないひなたちを次々と受け入れていました。
最後に出てきた5羽目のひなは、最初は実の母鳥に付いていく行動が見られたのですが、何が原因なのか、実の母鳥は追い払うかのようにひなをつつき始めました。そして、このひなもすぐに2羽の母鳥のもとへ。実はこの、他の親のひなを受け入れる行動はガンカモ類でときどき見られる現象で、野生のカルガモなどでも観察されています。集団になることによって、1羽あたりの捕食される確率を減らせたり、捕食者を早く見つけられたりするので、結果的にひなを捕食者から守ることができると考えられています。
もしかすると、2羽の母鳥たちは自分の子と思われる1羽目のひなが生き残る確率を上げるために、他のひなたちを快く受け入れていたのかもしれない、と勝手な想像を膨らませてしまいました。
こうして6羽のひなたちは2羽の母鳥と、さらに途中から2羽の母鳥のペアと思われるオス1羽も加わり、計3羽の親鳥に見守られながら、すくすくと成長していきました。血のつながっていない子が5羽いることに加え、本来子育てには参加しないはずのオスも子育てに参加しているという、なんとも不思議なこの光景(写真2)。たくさんのひなが集まるようすは、まるで”保育園”のようです。

団子になって眠るひなたちを見守る親鳥たち(カラフルな体色の個体がオス)
オシドリたちは野生でも、動物園という小さな世界の中でも、自分の置かれた環境に合わせて行動し、今日を一生懸命生きているのです。
ぜひみなさんも井の頭自然文化園の水生物園に来て、さまざまな発見を楽しんでくださいね。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 田所〕
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・オシドリ繁殖ばなし[1](2024年12月02日)