【葛西臨海水族園】自然を相手にする仕事

東京ズーネット

 2024年9月下旬、葛西臨海水族園の調査係である私たちは、生物の調査・採集のために東京都小笠原村父島へ行ってきました。

 出張の前には、採集したい生物や使用したい設備などについて、お世話になっている現地の方々と打合せをおこなっています。また、事前に採集に必要な許可の取得や手続きを進めたり、採集した生きものをどうやって水族園まで運ぶか道具の数や方法を決めるなど、準備は春から進めてきました。しかし、実際は当日の天候や海況、採集の成果によって大きく予定が変わることもあります。自然を相手にする仕事のため、予定通りに進むことは滅多にありません。

 ちなみに、出張するメンバーによっては「晴れが多い」「雨が多い」なんてことがよく起きます。そうすると話題になるのが「晴れ〇〇」「雨〇〇」という言葉。実証できることではありませんが、たしかに、と思わざるを得ないこともたびたびあるのです。今回の小笠原出張は強力な「晴れ〇〇」がいたので、「ボニンブルー」と呼ばれる小笠原の濃い青色の海を実感しながら調査・採集を進めることができました。一方で、出張中に地震と台風の影響を受けるという、私にとっては初めての出来事もありました。

 

小笠原の海。中央に浮かんでいるのはアオウミガメです

 地震の影響を受けたのは島に渡って4日目の朝です。海でのひと仕事を終えて陸へ戻って来ると、「津波注意報」が発令されていました。鳥島近海で発生した地震の影響によるものでした。予報では1mの津波が到達するということから、一旦作業は中断し、いつでも避難できるよう待機していました。幸い、現地では津波が観測されず何事もなかったため、無事に作業を再開することができました。

 台風は、出張の終盤に発生した17号の影響を大きく受けました。まず海が荒れ始めたため、予定していた調査・採集をいくつか変更し、計画を前倒しで機材の片付けなどを進めました。しかし、出港日の前日には急激に雨風が強くなってきたため、本土と父島を結ぶ貨客船「おがさわら丸」への機材積込みの予定が急遽中止となってしまいました。

 その結果、出港当日の早朝から大急ぎで機材や生きものの積み込み、片付けまでを全部おこなうという、最後の最後でいちばん慌ただしく作業をすることになりました。すべての作業を終えたときには汗だくでヘトヘトになっていましたが、無事に出港したあと、大きな虹が見えたことで気持ちも晴れました。

 

おがさわら丸から見えた大きな虹

 自然を相手にする仕事は思いどおりにはいかず、もどかしい思いをすることもあります。それを避けるため、私たちは多くの方々に協力いただきながら、さまざまな可能性を想定し準備をして、安全にかつ最大限の成果を出せるよう取り組んでいます。その結果、ユウゼンをはじめとする小笠原の魅力ある生きものを無事水族園に搬入することができました。

 

小笠原の海を代表する魚のひとつ「ユウゼン」

〔葛西臨海水族園調査係 幅祥太〕

◎関連記事
祝!世界自然遺産登録「小笠原現地レポート1」(2011年07月01日)
小笠原でユウゼンの生態調査を始めました(2012年11月02日)
荒海で「ユウゼン」調査(2014年07月11日)
苦戦した小笠原での調査・採集(2014年10月24日)
南の海でユウゼンを調べる(2015年07月10日)
生き物採集道具のご紹介(2022年09月15日)
新人調査係、ダーウィンに行く!(2023年12月01日)
いざ夜の海へ(2023年09月29日)

関連ワード
カテゴリ
タグ