AIとロボットで健康をサポート、夢を実現

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 日本は世界屈指の長寿国として知られており、国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した推計によると、2024年の平均寿命は、女性が87.94歳、男性が81.88歳とされている。すでに高齢化しつつある社会において、寿命は今後120歳まで延びる可能性があるという。人々の身体的な健康だけでなく、健康寿命、メンタルヘルス、認知機能をもサポートする技術が早急に求められている。

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SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラムにて、リビングラボのデモンストレーションを行った久保田教授と知能ロボット研究室のメンバー

 ヘルステック分野の草分け的存在である、東京都立大学大学院システムデザイン研究科知能ロボット研究室の久保田直行教授。同研究室が取り組んでいるムーンショット型研究開発のプロジェクト、中でも先日SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラムに出展した「リビングラボ」について教授ご本人に話を聞いた。

AIを活用したインタラクティブな移動式ラボ

 リビングラボは、久保田教授の言葉を借りるなら「UX(ユーザー・エクスペリエンス)デリバリー・サービス」を行うスタイリッシュなトレーラハウス型の実験環境で、ラボそのものや、そこから得られる知見を病院や介護施設、あるいはもっと離れた場所に直接届けることができる。

 利用者がトレーラに入ると、直ちにその人の身長と体重が登録され、最新のAI技術によって体の動きや筋肉の反応が記録される。「自分に何ができて、何ができないかを知ることは非常に重要です。多くの事故や怪我は、自身の限界を把握していないために起こっています。現段階で自分は何ができるのか、何を変え、どのようなサポートを追加すれば、年齢や身体の問題にかかわらず思い通りの生活を送り、楽しく過ごすことができるのかを、私たちの技術とサービスを通じて皆さんに知ってもらいたいです」と久保田教授は話す。

 教授らのチームが考案した、リビングラボの中で実施する様々なテストはゲーム仕様になっており、利用者に楽しんでもらいながら、運動機能や認知機能をミクロ、メゾ、マクロのレベルでチェックする仕組みだ。簡単なパズルに見えるゲームで、利用者の手と目の協調運動、利き手でない手の機能性、細かい運動能力の測定、視線計測などができる。

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リビングラボでのテストや作業は、楽しみながら運動能力や知的能力に関する各種データを収集できるものが多い。

 リビングラボでは、テストだけでなく、利用者の生活を改善する様々なヘルステック関連技術を紹介している。研究者や将来介護に携わる可能性のある人たちは、技術を導入する前後のデータを比較することで、利用者にどんな違いや改善が見られたかを知ることができる。

 「リビングラボが目指すのは、これから新たな挑戦や夢の追求をしようとする高齢者が、前もって自分の運動能力や知能をチェックするための『インターンシップ』のような役割を果たすことです。知能ロボット研究室の大保武慶助教の研究は、特に脳卒中後の後遺症などから回復途上の患者にとって、非常に画期的です。VRを取り入れて動きを可視化したり試したりすれば、患者が完全復帰に向けてより積極的になったり、自信を持って新しいスキルを学んだりできるようになる可能性があります」と久保田教授は言う。

スマーター・インクルーシブ・ソサエティ(誰もがスマートに共存・共生できるAIロボット社会)の実現

 リビングラボの他にも、久保田教授と知能ロボット研究室の32人のメンバーは多くのプロジェクトを手がけており、そのすべてがAIと知能ロボットを活用して人々の暮らしをサポートし、向上させることを目的としている。

 「AIについて私たちが目指しているのは、指示や命令を待つのではなく、自分で考え答えを導き出すようユーザーに働きかける、真に優れたコーチのようなプログラムを作ることです。究極的には、プログラム自体が不要になるようなAIソリューションを実現するのが目標です」

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ボトルを「手渡し」するロボットアーム。移動が難しい人たちを支援するためのロボット活用は、現在、知能ロボット研究室が研究開発している数々のソリューションの一つである。

 日々の運動量を増やすことでデジタルフラワーを育てるスマホゲームや、掃除や散歩などの日課をこなすと「レベルアップ」するロールプレイングゲームという、高齢者と孫がそれぞれの強みを活かして一緒に遊べるゲームの開発も進行中だ。

 ロボティクス分野では、外骨格型スマートロボットのような、社会インフラによる制約を克服する技術の開発に、実用化の可能性が期待される。このような進歩により、オリンピックやパラリンピックなどの主要なスポーツ大会で、障害のある選手もない選手も同じ競技で戦うことができるようになるかもしれない。

知識、および解決につながる可能性のあるアイデアの共有が重要

 リビングラボは、高齢者、および事故や医学的事象から回復途上の人々を想定して作られたものだが、SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラムの展示には子どもたちも訪れ、脱出ゲームを楽しんだ。「子どもたちがデジタル機器を楽々と使いこなしてしまうのは面白いですね。壊してはいけないからと、機械に触ることを禁じられていた私たちの世代とは大違いです」と教授は笑う。

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久保田教授は、AI、VR、ロボティクス等の技術を活用し、誰もがやりたいことを実現できる方法を見いだすことに情熱を傾けている。

 久保田教授は、プロジェクトを一般に紹介することに加え、SusHi Tech Tokyoのようなイベントも、企業や研究者にとって重要であると話す。「こうした展示会には、研究者としても、スタートアップやベンチャー企業としても参加したことがありますが、私たちが直面している問題に目を向け、考え、解決の糸口となるようなアイデアに出会う素晴らしい機会です」

 「私たちは大きな課題に直面している上に、不安定で不確実な時代に生きています。これまでの成功事例とはまったく異なるものが、答えになるかもしれないのですから、皆で知見を共有するのが一番です」

 世界が直面している様々な課題、特にヘルステック分野の課題については、どのような技術やソリューションが効果的で、今後必要とされるかを予測するのは難しいと久保田教授は指摘する。「目標を達成するための一番の方法は、既存のリソースを使って解決策を生み出すフォアキャスティングと、未来を想像し、その理想にかなう新しい技術を生み出すバックキャスティングを組み合わせることです」

久保田直行

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東京都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域教授。コミュニティ・セントリック・システム研究センター長。東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合理事長。名古屋大学大学院博士後期課程修了(工学博士)。計算知能や知能ロボットに関連する研究開発のほか、高齢者支援やリハビリテーション支援など様々な分野における社会実装を目指し、ロボットの知能化に向けた研究開発も行っている。
 

知能ロボット研究室
久保田直行、大保武慶

https://kub-lab.jp/

 

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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
https://www.sushi-tech-tokyo2024.metro.tokyo.lg.jp/

取材・文/キアラ・テルスオロ
写真/穐吉洋子
翻訳/喜多知子
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