【井の頭自然文化園】アマミトゲネズミ保全の取組みから一般公開へ
トゲネズミという動物をご存知でしょうか? 背中全体にまばらに生えたトゲ状の毛と、体長14cmながら高さ約60cmも飛び上がる跳躍力が特徴です。トゲネズミのなかまは、世界でも日本にくらしている3種のみで、奄美大島にアマミトゲネズミ、徳之島にトクノシマトゲネズミ、沖縄本島北部にオキナワトゲネズミが生息しています。

アマミトゲネズミの毛
ふつうの毛(左)と薄いプラスチックのような柔らかさのトゲ状の毛(右)
いずれも生息地の開発や、ノネコ、マングースなどの外来種の影響で数が減り、絶滅危惧種に指定されています。そのため、公益社団法人日本動物園水族館協会は2014年5月に「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」を締結、2017年から国内の動物園や関連施設でアマミトゲネズミの保全活動が開始され、井の頭自然文化園でも2020年から非公開のバックヤードでの飼育が始まりました。
限られた地域に生息するトゲネズミを守るために個体数を増やし、まだわかっていない生態についてさまざまな知見を集めています。

周りのようすをうかがっているアマミトゲネズミ
アマミトゲネズミの個体数を動物園で維持していくためには、繁殖技術の確立が不可欠です。井の頭ではえさとしてふだん、リンゴやニンジン、サツマイモ、ヒマワリや麻の実などの種子、ミールワームやフタホシコオロギなどの昆虫にビタミンやカルシウムを添加して与えていますが、奄美大島では栄養豊富なオキナワスダジイの実が10月ごろに落ち、アマミトゲネズミのえさになります。
現地ではこのころから繁殖が始まり、12月ごろにピークを迎えると考えられていることから、飼育下でも、繁殖のために同居させた雌雄にはオキナワスダジイの実をはじめ、園内のスダジイの実などを与えて栄養強化を図ったところ、ほぼ一年を通して繁殖に成功しています。繁殖には個体どうしの相性も大きく影響し、同居してから30日以内に交尾が見られないと、その後に交尾する可能性が少ないことがわかってきました。
繁殖の効率を上げるため、動物園どうしで連携して計画的に個体の交換をおこなっています。36頭の野生個体から飼育が始まりましたが、各施設の努力により現在までに約180頭もの子が生まれ、繁殖技術が確立されつつあります。

アマミトゲネズミの子(生後61日)
さらに井の頭自然文化園では、繁殖に関する知見を集めるために、何歳まで繁殖できるのか、調査を進めました。2023年8月に念願の初繁殖に成功し、翌9月にも同じメスが3歳8か月24日(1,363日齢)という過去最高齢で出産しました。2025年2月には別のペアから4頭の子が生まれています。
このペアのオスは5歳3か月3日(1,919日齢)で交尾しており、これは最高齢での繁殖でした。アマミトゲネズミの寿命は6~7歳のため、繁殖率の下がる高齢になるとペアリングに優先されないのですが、高齢個体でも繁殖に寄与できる可能性があることがわかりました。
夜間に動き回る母親と4頭の子
井の頭自然文化園では、生態や野生の状況を多くの方に知ってもらうために、2025年3月18日からアマミトゲネズミの一般公開を開始しました。公開にあわせて、奄美大島の生物の多様性や自然を知ることができる特設展も開催しています。アマミトゲネズミと奄美大島の魅力を感じに井の頭自然文化園へお越しください。

展示場に移動し、探索しているようす
〔井の頭自然文化園飼育展示係 野村〕
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