【多摩動物公園】ハダダトキが死亡し、国内の動物園では見られなくなりました

東京ズーネット
2023年11月6日、多摩動物公園内の外国産トキ舎で飼育していたハダダトキの最後の1羽が死亡しました。現在、国内では多摩動物公園以外は飼育しておらず、ハダダトキは日本の動物園では見られない種となりました。

 ハダダトキは、イボトキ属に分類され、生息域はアフリカ大陸のサハラ砂漠より南の地域の草原、サバンナ、湿地などの広範囲におよびます。外見は全体的に濃い灰色で一見地味ですが、翼の一部が光の角度によって緑や紫に見えたり、くちばしの上部が赤いようすは、正面から顔をみるとよく観察できました。
 

ハダダトキ(2023年5月7日撮影)

 名前の由来は、大きな鳴き声が「ハーダーダー」と聞こえたこととされますが、そのように聞こえた経験はあまりありません。英名は由来に因み「Hadada Ibis」ですが、生息地のひとつである南アフリカでは「Hadeda(ハディダ)Ibis」と呼ばれます。

 外国産トキ舎前をバイクが通過するときや、飼育係が掃除に入って扉を閉めるときに、大きな声で「アー!!」と鳴いていました。

 多摩動物公園の飼育展示の歴史は、1987年にトキ類の展示を充実させるために6羽のハダダトキを日本で初めて迎えました。1989年には国内初の繁殖に成功しましたが、孵化したひなが巣から落下したため人工育雛で育てられました。

 飼育開始当初は順調に個体数が増え、国内の他園にも搬出していました。しかし、人に育てられたハダダトキのひなは、ほかのトキ類の人工育雛されたひなに比べてもよく人に慣れるためか、成長してもペアをつくることはほとんどありませんでした。加えて、新規個体の導入もできず、徐々に個体数を減らし、2019年2月以降は1羽のみの飼育となっていました。

 この個体は2016年に多摩動物公園で生まれました。人工育雛で育ったためとても人懐こく、担当1年目の私でも掃除に入ると近くまで寄ってきて静かにこちらを見る行動が印象的でした。また、この個体は同じ部屋にいるカオグロトキのメスといっしょに行動し、メスどうしながらもペアのように連れ添っていることもありました。
 

左は同じ部屋で飼育していたカオグロトキのメス。ペアのように連れ添っていることもありました
(2022年6月23日撮影)

 また、冬に茂ったサザンカの枝に乗っていることが多く、ピンクの花とともに見下ろしてくるハダダトキのすがたをよく覚えています。
 

サザンカの枝に乗るすがた

 2023年10月末ごろから羽艶が悪くなり、採血して検査したところ腎臓と肝臓が悪くなっていることがわかりました。治療できる範囲の数値をすでに超えていたため、残りの時間をどうすごさせるか考えていた矢先に残念ながら死亡しました。
 

(2023年4月18日撮影)

 今のところ、ハダダトキを再び展示する予定はありませんが、外国産トキ舎には、ほかに7種のトキがいます。これらのトキ類の飼育・繁殖にこの貴重な経験を生かしていきたいと思います。

〔多摩動物公園/総務部 野生生物保全センター〕

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