【多摩動物公園】動物病院の道具の秘密

東京ズーネット
動物病院で使用される道具といえば、どんなものが思い浮かびますか。聴診器、注射器、それともメスなどの外科器具でしょうか。動物園では大きさも形もさまざまな動物を診療するため、個体に合わせて道具を手作りしたり加工したりしています。くふうが隠された道具の中から、麻酔用マスクをご紹介します。

 動物園の動物はペットと違い、人に対する警戒心が強いため、保定(動かないように押さえること)での治療に対してストレスを感じやすく、最悪の場合死にいたることもあります。また、人の安全確保の観点からライオンやサイなどの大型動物は近づいて治療することが難しく、大型動物の多い多摩動物公園では検査や治療のためにも麻酔をかける機会が多くあります。麻酔用マスクとは、麻酔器で気化された吸入麻酔薬や酸素を嗅がせるもので、鼻や口を覆うようにして使用します。

 

①一般的な動物用マスク

 一般的な動物用マスクのサイズは数種類あり、モルモットからカンガルーまでの大きさの動物で使用します。市販の動物用マスクは主にイヌ・ネコ用のため、大型動物や鼻の形が異なる動物には使用が困難です。
 

一般的な動物用マスク(シマオイワワラビー)
 

②サル類用マスク

 「サル類用マスク」は、名前のとおり、おもにサル類に使用しています。一般的な動物用マスクが円錐形であるのに対し、鼻の短い動物に合うよう浅く作られています。プラスチックの円筒容器を斜めに切って加工しました。サル以外にも比較的マズル(口周りから鼻先)の短いチーターやユキヒョウにも使用します。
 

サル類用マスク(チンパンジー)
 

③大型動物用マスク

 大型動物用マスクは、現在使用している麻酔用マスクの中でもっとも大きいものです。シマウマやトラなどの大型動物に使用しています。バケツを加工したもので、底に麻酔器からガスを送り込む穴を開け、顔に当たる部分には緩衝材を巻いています。
 

大型動物用マスク(グレビーシマウマ)
 

④鳥類用マスク

 猛禽類やハトなどくちばしの短い鳥には①の一般的な動物用マスクを使用しますが、くちばしの長い鳥は鼻まで覆うことができないため、くちばしの長さに合わせた鳥類用マスクを作成しています。

 写真左は、チャック付きビニール袋に接続パーツをはめたものです。袋の大きさを変えてくちばしの大きなペリカンやツルにも使用することができ、袋の口を閉め密着度を上げれば効率よく吸入させることができます。右はペットボトルの底をくり抜いたもので、主に小型のトキに適した大きさです。
 

左はビニール袋を加工したもの。右はペットボトルを加工したもの
 

⑤持ち手付きマスク

 最後に、少し変わったマスクを紹介します。ライオンやサイなどの危険な動物には一般的に注射薬で麻酔をかけますが、薬が完全には効かないこともあります。その際、吸入麻酔薬を安全に嗅がせるために役立つのがこのマスクです。長い持ち手が付いており、鼻に当てる部分が薄いため、柵越しでも吸入麻酔薬を嗅がせることができます。ペットボトルに切れ目を入れて放射状に開き、ビニールを被せて作成しました。
 

持ち手付きマスク。右はライオンに使用しているところ


 動物園での治療でもっとも難しいことのひとつが、動物の形態や生態が多様なため、種ごとに最適な道具や方法を選択しなくてはいけない点です。病気に関する知識だけでなく、動物を観察し生態や特性を知ることが必要です。これからも、日々動物たちの特徴を観察し最適な治療をおこなえるようくふうを重ねていきます。

〔多摩動物公園動物病院係 佐藤〕
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